自分の欠点のひとつに、理屈っぽいことがあります。
何かを判断するとき、まず「これは正しいか、正しくないか」から考えてしまいます。感情より先に論理が動く。議論になると、相手の言っていることの矛盾を探してしまう。自分では気をつけているつもりでも、後から思い返すと「あの言い方は理屈っぽかったな」と感じることがあります。
ただ、世の中は大抵、感情で動いています。頭ではわかっていても、なかなか腹落ちしないまま今日まで来ている気がします。
最近気になっているのが、謝罪の炎上です。
問題を起こした企業や人物が、記者会見や声明で謝罪する。内容を読んでみると、事実関係は正確に述べられていて、再発防止策も具体的で、論理的には申し分ない。なのに、世論が納得しない。コメント欄が荒れる。炎上する。
逆に、内容は薄くても、ひとこと「本当に申し訳ありませんでした」と深々と頭を下げた映像が流れると、空気が変わることがあります。論理の密度より、頭の下げ方。言葉の正確さより、声の震え方。
「正しいことを言えば伝わる」という前提が、そもそも成り立っていないのかもしれません。
ダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」に、人間の思考を「システム1」(速い・直感的・感情的)と「システム2」(遅い・論理的・意識的)に分ける考え方があります。
多くの場合、私たちはシステム1で判断を下してから、システム2でその判断を後付けで正当化します。感情が先に動いて、論理はあとからついてくる。つまり、論理的な説明がどれだけ正確でも、感情的な反応がすでに固まっていれば、説明は届かない。
謝罪の炎上も、このメカニズムで説明できる気がします。「この人は誠実じゃない」という印象がシステム1で形成されてしまうと、どれだけ論理的な謝罪文を読んでも、それはシステム2の後付け正当化に使われるだけです。「言い訳だ」「準備された言葉だ」という形で。
山本七平の「空気の研究」は、日本社会における意思決定が、しばしば論理ではなく「空気」によって行われるということを分析した本です。1977年に書かれた本ですが、今読んでも古びていません。
「空気を読む」という言葉は日常的に使われますが、その「空気」の正体はなんなのか。それは、言語化されていない感情の集積のようなものだと思っています。場の雰囲気、その場にいる人たちの感情的な傾向、暗黙の期待。これらが合わさって「空気」になる。
そして、その空気に逆らうと、どれだけ論理的に正しくても、場が凍る。炎上も、ある種の「空気の反乱」のようなものかもしれません。
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Amazon 「空気」の研究(山本七平) なぜ日本では論理より「空気」が優先されるのか。1977年刊行の古典的名著。炎上や同調圧力を読み解く視点が得られる。 |
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理屈っぽい自分が少しずつ気づいてきたのは、「正しいことを言う」と「相手に届く」は別のことだ、ということです。
正しいことを言っても、相手の感情が閉じていれば届かない。逆に、多少論理が粗くても、感情的なつながりが先にできれば、相手は受け取ってくれる。これは経験的に実感していますが、頭でわかっていても、なかなか体に染みついてくれません。
炎上する謝罪を見て感じるのは、「なぜそんなことで」という気持ちと、「でも感情はそういうものだ」という冷静な観察が、同時にあります。理屈として理解はできる。でも感情的には納得しきれない。それが自分の正直なところです。
理屈で生きてきた自分が、感情で動く世界にどう折り合いをつけるか。これは今も進行中の問いです。
感情に寄り添う力を意識的に育てようとしているのか、と聞かれると、まだそこまでできていないと思います。ただ、「正しいことを言えば伝わるはずだ」という前提を少しずつ手放そうとしているのは確かです。
論理は道具です。その道具が効かない場面もある、ということを、もう少し素直に認めていこうと思っています。
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