「自分の子どもに惨めな思いをさせたくないから、あえて生まない(結婚しない)」
ネットニュースの少子化議論の中で、今の若い世代のこの言葉が多くの共感を集めていた。完璧な環境を用意できないなら生まないのが親の責任、というロジックだ。一見すると、未来の子どもを慮る優しい言葉のように聞こえる。しかしその皮を一枚めくれば、そこにあるのは「自分が親として否定されたくない」「子どもから親ガチャのハズレだと恨まれたくない」という、強烈な自己保身とプライドに他ならない。
さらに言えば、目先のコストやリスクを嫌って「他者へのコミット(育児)」という人生最大のプロセスをスキップするコスパ・タイパ至上主義は、人生100年時代という長い時間軸で見れば、圧倒的に非合理だ。前半の10年をイージーモードにするために、後半の40年をハードモードにしているようなものだからです。
……と、ここまでは彼らへの批判として語ることもできる。しかし今年で50歳を迎えた一人の大人としてこのニュースを眺めたとき、私の胸に去来したのは彼らへの憤りや説教ではなかった。そこにあったのは、「この詰んだ盤面を用意したのは、他ならぬ我々大人の選択の結果である」という、逃れようのない自責の念と絶望だった。
若い世代が過剰なほど損得勘定を働かせ、リスクを恐れて防衛ラインを固めている姿は、確かに痛々しく見える。だが、そうせざるを得ないほど「一度レールを外れたら二度と這い上がれない社会」を30年間放置してきたのは、一体誰なのか。
失われた30年の始まりを若い頃に経験し、社会が壊れていくプロセスをリアルタイムで見てきたのは、私たち50代の世代だ。非正規雇用が増え、実質賃金が下がり、社会保険料だけが跳ね上がっていく。その都度「何かおかしい」と肌で感じていながらも、私たちは自分の生活を守ることに必死で、あるいは「誰かがなんとかしてくれるだろう」と高を括り、抜本的な声を上げず、現状維持や痛みの先送りを許容し続けてきた。若者たちから「泥臭くも豊かなプロセスに挑戦する心の余裕」を奪ったのは、私たちの事なかれ主義に他ならない。
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「今の若者は自分のことしか考えていない」という批判は、そのまま巨大なブーメランとなって私たち自身に突き刺さる。なぜなら私たち上の世代こそが、選挙や社会の合意形成において「自分たちの代さえ逃げ切れればいい」「今ある既得権益を1ミリも削られたくない」というシルバーデモクラシーを押し通してきたからだ。
未来への投資を削り、現役世代を搾取の対象として扱いながら、自分たちの社会保障の維持だけを政治に要求する。そんな大人たちの背中を、今の若者たちは冷めた目で見つめて育ってきた。「あぁ、この社会は自分のことだけを考えて賢く立ち回らないと、すべてを毟り取られて終わる場所なんだ」と。彼らのコスパ・タイパ至上主義は、私たちが過去数十年間にわたって社会に見せてきた利己主義の、あまりにも忠実な鏡写しであり、哀しき遺伝なのだ。
「自分がどれだけお金を持っていようが社会が回らなければただの『ゴミを集めているだけの日々』になる。結局、僕らは誰かが生んだ子どもに助けられて生きている。」
――EXIT・兼近大樹氏
この言葉の通り、若者が次世代への投資をボイコットした社会では、どんなに現金を貯め込んでも意味がない。自分が老いたとき、病院を維持する医師も、インフラを守る技術者も、自分をケアしてくれる若者もいないのだとしたら、銀行口座の数字などただのゴミだ。若者たちはミクロな損得勘定で自らの生存基盤を掘り崩している。そしてそのツケを最初に、最も直撃で払わされるのは、これから数十年後に高齢者となる、まさに今の50代——私たち自身なのだ。
50歳になって人生を振り返ると、人間にとっての本当の豊かさとは、目先の効率や預金残高ではなく、他者のために泥臭くコミットし、次世代へバトンを繋ぐプロセスそのものにあったのだと、ようやく実感を伴って理解できるようになる。しかし今の若者たちからその権利を剥奪したのは、他ならぬ「我々国民」自身である。
若者たちが「子どもをコスト」と見なし、社会の維持を自己責任だと突き放すのは、彼らなりの必死の適応反応であり、大人たちに対する完璧な因果応報だ。
天に向かって吐いた唾が、自分たちの顔に降り注いでいる。若者のエゴを嘆く資格など、我々にはない。鏡に映る自分たちの過去の選択の重さに、ただただ暗澹たる気持ちになる――それが、このニュースを見た50歳の、リアルな胸の内だ。
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