「AIは言葉の意味を理解していない」
「ただそれっぽいことを言っているだけ」
こういうAI批判、よく見かけます。たしかに、技術論としてはその通り。AIは膨大な言語データから、もっとも適切そうな単語や文を“予測”して返しているだけで、言葉の背後にある感情や文脈、歴史的な意味合いを“自分の体験として”理解しているわけではありません。
でも、それを言うなら――
**人間の会話も、かなり“技術”で成り立ってるんじゃないか?**と、私は思うのです。
たとえば、誰かが「最近どう?」って聞いてきたとします。
このとき、私たちは状況によって瞬時に「ふさわしい返事」をパターンで選んでいます。
ここにあるのは、「意味の交換」よりも「文脈への適応」。
つまり、“意味”より“ふさわしさ”が優先されている。
これってまさに、AIの言語モデルがやっていることとほとんど変わらないんですよね。
会話の中で自然に出てくる相づち。
これって、実は「ちゃんと理解してるから出る反応」ではなくて、**会話をスムーズに保つための“技術的リアクション”**なんですよ。
たとえば疲れているときでも、「うんうん」ってうなずいたり、「なるほど」と言ったりする。それは相手に「聞いてますよ」というシグナルを送るため。
つまり、人間は無意識に“会話のプロトコル”を使っている。これは言い換えれば、言葉の意味を完全に理解しなくても、会話が成立するようになっている技術的構造なんです。
ここが一番のポイントかもしれません。
会話は、「正確な情報のやり取り」ではなく、**「関係性のメンテナンス」**の役割を果たしていることが多い。
「おつかれさまです」
「最近寒いですね」
「今日はいい天気ですね」
これらは情報の交換ではなく、“あなたを気にかけています”というメッセージを、言葉を使って“それっぽく”伝えているだけ。
そう考えると、AIが「今日は寒いですね」と言ったとしても、技術的には人間と同じように“関係の維持”を目的とした反応をしているとも言える。
人はなぜ、AIの返す言葉に「それっぽさ」を感じるのか。
それは、人間の会話自体が“技術的である”からこそ、その構造をなぞるAIの発言が自然に感じられるのだと思うんです。
AIが使う言い回しやタイミング、相づちの打ち方、共感のフレーズ──それらは、私たちが普段無意識に使っている“技術”の模倣。
つまり、「意味を理解していない」という理由だけでAIを偽物扱いするのは、人間のコミュニケーションの仕組みをちょっと美化しすぎているのかもしれない。
会話とは、ある種の演技であり、リズムであり、フィーリングです。
その場に合った言葉を選び、相手の反応を見ながら微調整していく。それはAIも、人間も、技術としてやっていること。
もちろん、人間には感情があって、人生があって、背景があります。AIにはそれがありません。
でも、人間が思うほど、「会話の成立」に感情や深い意味理解は必須じゃない。
むしろ、“それっぽさ”や“タイミング”という技術の方が大きなウェイトを占めている。
そう思うと、AIの発する言葉に対してもう少し寛容になってもいいのかもしれません。
だって、人間もけっこう“それっぽく”会話してるんだから。