前回の記事では、惑星とは「円盤の平面に従って生まれた第一レイヤーの天体」なのではないか、という仮説から出発して、「軌道傾斜角 7.5°(=π/24)をひとつの美しい境界線にしてみよう」という、かなり思い切った『俺的惑星定義』を提案しました。
学校では「惑星は9つ」と習い、大人になったら「冥王星は惑星ではありません」と突然ハブられ、その一方で天文学者の中には「いや、冥王星には惑星の風格があるんだ」と未練たっぷりの声もある。そして極めつけは、冥王星を外しておきながら「実は太陽系には Planet Nine があるかも!」と嬉々として語り始める研究者たち。
──冥王星は外すのに、幻の9番は探すんかい。
と、素人の私は思わずツッコミを入れたくなったのです。その「惑星の定義をもっとスッキリさせたい」という欲求が、今回の続きを書く原動力になりました。
惑星を「どう見分けるか」より「どう生まれたか」で整理してみよう、というのが前回の核心でした。
恒星は、宇宙を漂う分子雲が重力で潰れて生まれます。そのとき初期のわずかな回転が急速に増幅され、薄い円盤状の「原始惑星系円盤」が形成される。この円盤の中で惑星の材料が集まり、生まれつきほぼ同じ平面に並ぶ天体が育っていく。
太陽系の8惑星の軌道傾斜角を並べると、水星7°・金星3°・地球0°・火星1.8°・木星1.3°・土星2.5°・天王星0.8°・海王星1.8°と、驚くほど平面に揃っています。一方、冥王星は17°、エリスは44°、彗星は50〜180°。完全に別の世界です。
惑星の最大傾斜が水星の7°で、外縁天体の入口がクワオアーの8°。その中点の7.5°(=π/24)は、太陽系データが自然に分かれるポイントであり、数学的にも割り切りが良く、系外惑星の統計とも調和する。そこで私は「軌道傾斜角 7.5°以下の天体を惑星と呼ぼう」という提案をしました。
この「俺的惑星定義」を思い切って、惑星形成論の第一人者である井田茂先生にメールしました。
すると、先生は驚くほど丁寧に返信してくださいました。主な指摘はこうです。
特に「不変面」の話は目からウロコでした。惑星の「本当の平面」は地球の公転面を基準にするのではなく、惑星系全体の角運動量の総和で決まる面のことだというのです。太陽系でいえば黄道面とほぼ一致しますが、概念としては別物です。
先生のアドバイスを受けて、私の考えはこう進化しました。
7.5°を「ここを超えたら惑星ではない」という硬い閾値と捉えるより、惑星系の不変面の周囲に自然に低傾斜天体が集中する「帯(ベルト)」がある、と捉えるほうが正確なのだと思います。これを惑星ベルト(Planet Belt)と呼ぶとしたら、7.5°はその帯を象徴するひとつの目安にすぎない。
つまり、
という構図が、よりすっきり浮かび上がります。
先生とのやり取りを経て、私はこんな体系を考えるようになりました。
レイヤー1:恒星の影響圏で生まれた天体 = 惑星
惑星ベルト内の低傾斜天体(太陽系の8つ)、および散乱などで傾いた「高傾斜惑星」(系外惑星に多数)。
レイヤー2:惑星の影響圏で生まれた天体 = 衛星
ガリレオ衛星のような「整列衛星」と、トリトンのような「捕獲衛星」。
レイヤー3:散乱・残存物 = 小天体・準惑星
小惑星帯、キュイパーベルト、高傾斜散乱天体、彗星。球形になったものが準惑星。
宇宙の構造をそのまま分類に落としたような体系です。「惑星は円盤の第一レイヤーの子どもたち」「外縁天体は円盤の端の住人」「散乱天体は巨大惑星の影響を受けた乱流組」というストーリーが、一本の線で整理できる気がしています。
冥王星を準惑星に降格しておきながら、新しい第9惑星を熱心に探している天文学界。この一見矛盾した態度も、このレイヤー構造で見ると自然に説明できると思います。
Planet Nine は、もし存在するなら高傾斜軌道を持つ「乱れた経歴のある惑星」として分類できる可能性が高い。つまり「惑星ベルトの住人ではないが、惑星の質量・形成起源を持つ天体」です。冥王星とはそもそも住んでいるレイヤーが違う。そう考えると、冥王星を外しつつ Planet Nine を探したくなる理由も、それほど矛盾ではないのだと思います。
2024年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の Jean-Luc Margot 氏らが、新しい惑星定義案を発表しました。質量が 10²³ kg より大きく、木星の13倍より小さい天体を惑星と定義するという、数値で明確に線を引く案です。
Margot案の強みはブレのなさにあります。太陽系でも系外惑星でも同じルールでラベリングできる、観測現場のための「実務の定義」です。
一方で私がこだわってきたのは、惑星を「どうラベル分けするか」だけでなく、恒星系の「物語」としてどう説明するか、という部分です。7.5°と惑星ベルト/レイヤー構造は、恒星系の始まりから惑星・衛星・小天体の成り立ちまでを一つの家系図として語るための枠組みです。
個人的には、
という関係だと思っています。どちらが正しいではなく、目的が違う。二階建てで両方あっていいのではないか、と。
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井田先生とのやり取りを経て、私はこう整理しました。
惑星とは、円盤平面の秩序を継いで生まれた天体。そのまとまりが見える帯を「惑星ベルト」と呼ぶ。7.5°という数字は、その帯を象徴するひとつの美しい目安。
「軌道を片付けているかどうか」ではなく、恒星系の成り立ちそのものから惑星を考える。この視点は、科学的にも統計的にも、そして何より自分の中の「美しさ」にもかなう整理でした。
冥王星騒動からずっとモヤモヤしていた心が、ここにきてようやく少しスッキリした気がしています。専門家には突っ込みどころがあるかもしれないけれど、素人なりに筋を通して考えた記録として、残しておきたいと思います。
