家の隣に、長年放置された空き地がある。誰も管理していないのか、夏になるたびに草が伸び放題になり、気づけばうちの庭にまで侵食してくるようになっていた。セイタカアワダチソウ、ヨモギ、ヤブガラシ——名前を調べると有名な雑草ばかりで、どれも生命力が強い。蚊も増えるし、地面から草木の臭いが立ち込めてくるし、何より見ていて気が滅入る。
最初は「なんとかならないものか」と思いながら、ただ眺めていた。でも、眺めているだけでは何も変わらないと気づいたのは、子どもが庭で遊べなくなってからだと思う。草に虫がわいて、縁側のあたりまで蚊が飛んでくる。夏の夕方に窓を開けられなくなった。そのあたりが、「もう限界かな」と思ったきっかけだった気がする。
その土地は、どうやら相続が絡んでいて所有者がはっきりしないらしい——そう聞いたのは町内会の集まりでだった。「管理する人がいない」という事情を知って、少し複雑な気持ちになったのを覚えている。所有者がいないわけではなく、誰なのかわからない状態というのが正確な表現で、行政に問い合わせても「確認できません」と言われた。
「うちで草だけ刈らせてもらえないか」と町内会長に相談したところ、快く了承してもらった。正式な許可という形ではないけれど、地域としての合意は得られた。それで動くことにした。おそらく近隣のみんなも、あの状態をどうにかしたいと思っていたのだと思う。
正直に書いておくと、他人の土地に無断で手を入れることは、法的には問題のある行為なのかもしれないと思っている。民法的にも、不法侵入や工作物に関する観点からも、グレーな部分があることは否定しない。「じゃあやめればいい」という意見も、理屈としてはわかる。
ただ、現実的に生活を守る必要もある、というのが本音だ。草が伸び続ければ虫が増え、子どもの遊び場が失われ、近隣の景観も悪化する。行政に相談しても「所有者が不明なので対応できない」と言われてしまった。待っていても誰も動かない状況で、できる範囲で丁寧に動くことが、現実的な選択だと感じた。
法律の正論と、日々の生活の現実は、必ずしも一致しないのだと思っている。それを踏まえながらも、できるだけ丁寧に、最低限の範囲で草だけを刈る——というやり方で続けていこうというのが、今の自分のスタンスだ。誰かに強くすすめたいわけではないし、これが唯一の正解だとも思っていない。ただ、自分にとってはそれが誠実な判断だったと思っている。
草刈りを始めた当初は、ホームセンターで買った電動草刈り機(コード式)を使っていた。軽くて扱いやすく、初心者でも安全に使えるのが魅力だった。価格も5,000円前後で手が出しやすかった。
ただ、コードが届く範囲に限界がある。延長コードを引き回しながら作業するのだが、草に絡まって何度もイライラした。空き地の奥のほうは、コードが届かずそのまま放置、という年もあった。夏の盛りに作業すると、30分で汗だくになる。作業後はしばらく腕がしびれていた。
それでも年2〜3回、春から秋にかけて草刈りをくり返した。刈った後の清々しさは、なかなか気持ちいいものだった。空き地に風が通り、視界が開ける感じ。達成感というより、ほっとする感じに近いかもしれない。
5年続けているうちに、少しずつコツもわかってきた。草は刈る時期が大切で、梅雨前と梅雨明け後に刈ると生育サイクルを乱せる気がする。放置すると種が飛んで翌年さらに増えるので、花が咲く前に刈り終えるのが理想だ——とはいえ、毎回うまくいくわけでもないのだけれど。
刈った草の処理も、地味に大変だ。燃えるゴミで捨てる場合、自治体によって量の制限がある。乾かしてからまとめると体積が減るとわかったのも、2〜3年経ってからだ。こういう「現場で覚えること」は、やってみないとわからないことが多いと思っている。
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5年続けてきて、昨年初めてエンジン式の草刈り機を使った。知人が「これじゃないと広い土地はきつい」と言っていたのを思い出して、試してみることにした。知人から借りる形での初体験だったのだが、使ってみて正直驚いた。
パワーが全然違う。電動では手こずっていた太めの茎も、スパッと切れる。コードがないので動き回れるし、同じ面積を電動の半分以下の時間で刈れた気がする。振動は強めで疲れ方の種類が違うのだが、「終わった」という達成感も大きかった。
ただ、エンジン式は音がうるさい。近所への配慮として、朝早い時間と夕方遅い時間は避けるようにしている。混合燃料(ガソリン+オイル)の準備も少し手間だし、メンテナンスもある。それでも、作業効率の向上は明らかで、今年もエンジン式で挑もうと思っている。道具が変わると、同じ作業の体験がかなり変わるという実感がある。
5年やってわかったのは、草は必ず戻ってくるということだ。刈っても刈っても、次の年にはまた同じように伸びる。完全に制圧することは、たぶんできない。自然相手に「勝つ」という感覚は、最初からずれていたのかもしれないと思っている。
でも、そう考えると少し楽になった。草刈りは「勝つ」ものじゃなくて、「続ける」ものなのだと思っている。年に数回、暑い中で汗をかきながら刈る。そうすることで、家の周りの環境がなんとか保たれている。その繰り返しが、地域との小さな関わりにもなっているような気がする。
来月あたり、今年最初の草刈りをしようと思っている。エンジン式の出番だ。きれいに刈り終わったあと、縁側でお茶でも飲めれば、それで十分だと思っている。
この5年で、似たような状況に悩んでいる人の話をいくつか聞くようになった。相続登記が義務化されていなかった時代の土地は、そのまま放置されているケースが多いらしい。2024年から相続登記が義務化されたが、すでに放置されている土地はすぐには解決しない。
行政も「わかっているが動けない」状態が続いている場所は、全国にたくさんあるのだと思う。そういう現実の中で、地域の住民が自主的に動いている例は、おそらく珍しくないのではないかと感じている。
「正しい手続きを踏んで、誰かが動いてくれるまで待つ」という選択が理想だとは思う。でも、待ち続けることで失われていくものもある。その両方を抱えながら、できることをやっていく——そういう場面は、生活の中にわりとあるのではないかと思っている。草刈りという小さな話から、少しだけ大きなことを考えてしまった。
草刈りをやってみようかと思っている人がいたら、最初は電動の軽量モデルで試してみるのがいいと思う。体力的な負担も少なく、失敗してもダメージが小さい。広さや草の状態を見ながら、必要に応じてエンジン式に移行するという流れが、自分の経験からは自然に感じる。
道具選びよりも大事なのは、「一人でやろうとしすぎない」ことだと思っている。町内会や近所と話しながら進めることで、作業がしやすくなるし、何かあったときに声をかけやすい関係になる。草刈りは地味な作業だけれど、地域とのつながりを作るきっかけにもなりうるのではないかと感じている。少なくとも、うちの場合はそうだったと思っている。
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