きっかけは、ただの気まぐれだった。
Amazonをふらふら見ていたある晩、 「肉球が下から見えるキャットタワー」という商品を見つけた飼い主は、 そのレビューに心を撃ち抜かれた。
「下から見える肉球がたまらない!」
──たまらない。 その一言にすべてが詰まっていた。
みたらしのぷにぷにを、真下からじっくりと堪能できる。 これはもう、導入するしかない!
というわけで、到着したキャットタワーを即日組み立て。 透明ドームが鎮座するその姿は、 まるで“猫の王座”であり、 “ぷにぷに観測用のステージ”でもあった。
最初はおっかなびっくりだったみたらしも、 数日でこの場所に慣れ、堂々と乗るようになった。
くるりと丸まり、 ふわふわの尻尾に顔をうずめ、
「ああ……これこれ……こういうのが見たかったんだ……」
飼い主の心は毎日が天国モード!
下から見えるピンクの肉球! たぷんと膨らんだお腹! ちらりとのぞく白足!!
透明ドーム、最高。 この買い物、大正解。
……そう思っていた、あのときまでは。
これは、目を疑うような光景から始まった——。
ある日、ふとキャットタワーを見上げたとき。 そこにいた“それ”は、いつものみたらし……ではなかった。
肉球!肉球!!また肉球!!!
ピンクのぷにぷにが4本、 バラバラな角度で、空に向かって突き上げられているッ!!
「なんだこれは……?」 「どうなってるんだ……?」
一瞬、飼い主の脳がフリーズする。 そして誰かがつぶやいた——
「……再構築された異形生物、だ……」
そこにいたのは確かに“猫”だった。 だが、それは“猫だったもの”なのかもしれない。
透明なドームの中で肉球が突き出され、 顔は見えず、背中も消え、 ただただ、部品のように構成された手足と尻尾だけが見えている。
まるで、分解されたパーツが再構築され、 新たなみたらしとして再編成されたかのような異様なフォルム!!
上半身は沈み、下半身は浮かび、 ドーム越しのボディが歪んだ魚眼レンズのように広がる。
——圧倒的足率!!!
これはもう、猫という概念を超えている。 「下から見るサイバーパンク系の生命体」!!
その異様さに息を呑みながらも、 飼い主は確認する——
「……生きてる!? 呼吸してる!???」
そう、みたらしはただ寝ていただけだったのだ。 しかしあまりに静かで、あまりに無防備なその姿が、 見る者に“癒やし”というより“異質な圧”を与える。
——これは本当に“リラックス”なのか? それとも、“異界との交信モード”なのか?
再構築された異形生物・みたらし。 その正体を突き止めるには、 我々が“猫”という定義そのものを見直さなければならないのかもしれない……。